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第39話 炎上したのに、戻ってほしいと言われて心が揺れる

ผู้เขียน: 悠・A・ロッサ
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-18 19:55:54

 外に出ると、湿った風がまとわりついた。

 晴紀はスーツのポケットに手を入れたまま、気づけば歩いていた。

 行き先を決めた覚えはない。

 ただ、足が勝手に動いた。

 夏の光が真上から降り注ぐ朝の街。

 ビルの影が濃く落ち、蝉の声が遠くで震えている。

 そして角を曲がったとき──

 焙煎の香りがふっと鼻をかすめた。

(……ブルーオーク?)

 考えるより先に、扉を押していた。

 空いていた窓際の席に腰を下ろし、紙カップを両手で包んだ。

 温度よりも、手に触れている何かが欲しかった。

 店内の焙煎の香りに触れていると、

 胸の奥でひとつだけ、半年前の記憶が静かに揺れた。

(……あの時も、ここに来た)

 鬼塚の初案を伝えようとして、朱音を探し回って——

 最後にたどり着いたのが、この店だった。

 朱音は迷わず言った。

『それはあなたからは受け取らない。

 でも……店は見せて』

 そのまま二人で京都へ向かった。

 職人の手元と、店の温度と、あの日の朱音の横顔がいまも焼きついている。

(あの時、初めて思ったんだ)

(……彼女なら、清晴堂の未来を作れるかもしれないって)

 その微かな光が胸の奥でまた灯りかけたとき、店の扉が開く音がした。

 ふと視線を上げると──その光の中に、朱音の姿があった。

(……え?)

 紙カップを買うでもなく、ただ入口で店内を見渡すように立っている。

 驚きより先に、晴紀の心臓だけが瞬間的に跳ねた。

 こちらの視線に気づいたのか、朱音がゆっくりと顔を向ける。

 目が合った瞬間、ほんの一秒だけ、時計の針が止まったように空気が静まった。

 晴紀は息を吸うことさえ忘れていた。

「……朱音」

 それ以上、説明も言い訳も、何も出てこない。

 ただ、この店に足を向けてしまった理由がひとつだけ確かになった。

(……会うべきだったんだ)

 朱音はわずかに目を瞬かせてから、歩み寄り、静かに言った。

「……偶然ね」

 でも、その声の奥には──

 ほんのわずかに、未来の気配が揺れていた。

***

 その日の午後、胸の奥で微かな風向きの変化を感じていた。

 理由は分からない。

 ただ、何かがそっと未来の方へ転がり始めたような予感だけが残っていた。

 角を曲がったとき、焙煎の香りがふわりと頬をかすめた。

 気づけば私は、その香りに導かれるようにブルーオークの扉を押していた。

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  • 憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~   第24話 春は順調。だから、あなたはいらないのよ

    【清晴堂、来客数回復の兆し 春の導線、職人映像がSNSで拡散中】 季節が、いつの間にか冬から春へ移っていた。 記事を閉じても、薄桜色の売り場写真が胸の奥にざわめきを残す。(……春、動き始めたんだ) 動画を開いた瞬間、心臓がかすかに跳ねた。 桜色の包み、並び順、光の当て方──(……これ、私が提案した「季節の骨格」がそのまま使われてる) けれど次の瞬間、指が止まる。(でも……あれ? ここは私の案と違う) 春菓子の背に、小さな余白の棚。 光の角度で桜影がふっと浮く。(こんなの……思いつかなかった)(……さすが、鬼塚さんだ) ページを閉じても、その棚だけが目に焼きついた。(……少しだけ。ほんの少しだけ、本物を見にいきたい) 本当に、ただそれだけのつもりだった。 でも、会社の出口を出たときには、 足が自然と清晴堂の方向へ向かっていた。(見つからないように。 ただ……企画の現場を見たいだけ)*** 翌朝。 春の空気はまだ冷たくて、 それが逆に胸を落ち着かせた。(……見に行くだけ。入らないから) 自分に言い訳しながら、 私は人の少ない開店すぐの時間に清晴堂へ向かった。 正面入口には近づかない。 観光客が流れ込む前に、建物脇へそっと回り込む。 ガラス越しに見える春の売り場。 桜色の包み、光の落ち方、職人の手元の動画モニター。(……映像で見るより、ずっと綺麗) 胸がひりつく。 自分の企画の骨格がそこにあるのに、 自分だけがこの場所の外側にいる。(……入れない。炎上したの、私なんだから) ガラスに手を触れるのも怖くて、 ただ少し離れた場所から見守るように立っていた。 そのとき──「……朱音?」 背後から、慎重に落とされた声。 振り返ると、 晴紀が買い出しの箱を抱えたまま、目を見開いていた。「なんで……外に?」「見に来ただけよ。外から……また炎上すると困るから」 そう言うと、晴紀の肩がかすかに沈んだ。「そうか」 しばらく黙っていた晴紀は、 ガラス越しの売り場を一緒に見るように立った。「朱音の企画……すごく良かったよ。新しいお客さんがたくさん来てくれてる」「……そう」「元は朱音の案だ。本当に、ありがとう」 その言葉が胸に刺さった。 そんなこと、言われたくなかったのに。 その瞬間─

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